この作品は、その後連載作品としてスタートしますが、一貫して、その世界観はブレることなく、本格推理マンガというジャンルを快走します。石森作品と言えば、SFであったり、ヒーロー作品を思い描く方が多いと思います。『サブと市捕物控え』のような時代ものも有名ですし、ギャグマンガも支持されています。そんななかで推理マンガは、異彩を放っていますね。
調べればまだまだあるかもしれませんが、今ふと思いつくのは、他に『おみやさん』『探偵ドゥ一族』くらいでしょうか。考えれば、小説の世界でしたら、文芸作品、SF作品とありますが、推理小説というのは、それ以上に、とても大きな分野です。マンガだと、近年は『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』などございます。しかし、小説ほどマンガの世界では、ミステリーはポピュラーではないような気がします。しかも、それが70年代まで遡ると、このジャンルはかなり稀ではなかったでしょうか。
常に新しいジャンルや手法を求めて、挑戦する先代らしい作品の一つに、『鉄面探偵ゲン』は数えなければいけないと思います。日本海に浮かぶ、首なし島で起こる難事件に挑む『首なし島の花嫁』。このシリーズに一貫して漂う、田舎、日本の古き伝統や伝奇などの、“和”のティストが、作品全体をこのムードで包み込んで、独特の世界に引き込まれます。切ないラストへの展開も秀逸。他に「野良犬」、最終回の「妖怪」など、泣ける作品で、僕は好きです。
このシリーズになってから、鉄面クロスの時より、鉄面姿になる機会が一気に減ります。全く鉄面にならない回もあるくらい。それほど、本格ミステリーマンガに転換している証拠かもしれませんが、時折見せる鉄面姿が、逆に非常に効果的に使われています。間違いなく石森は、とても細かく計算しているに違いありません。