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「写楽 後編」

ページ数で言えば、15ページほどの短編作品。だけど、これをなるべくセリフを抑えて、美しくも、もの悲しい作品に仕上げております。

本人の持論では、写楽は歌麿が別のペンネームでタッチを変えて描いているという説を唱えておりました。それは、幾らタッチを変えても、手の形、指先だけは絵描きの癖が出るのだそうで、なるほど、そう思って写楽画と歌麿画を見比べると、確かに手だけは類似しているように感じます。

この説を聞いた時は、さすが萬画家の目の付け所は違うと感心した事を覚えております。写楽の正体を作者本人はそう考えておりますが、今回取り上げている「写楽」という作品では、桔便屋の倅(若旦那)という設定にしています。

写楽は誰かと言う事よりも、この作品に僕が魅了されたのは、石ノ森章太郎ではなく、僕が世界で一番尊敬してやまない、小野寺章太郎の人生を反映させて描いているからです。それは、「写楽」という人物に当てながら、自分自身を物語る、まるで私小説のよう。それを情緒溢れるタッチや情景で描き、そこに本人の人生が見えて、読みながら泣きそうになりました。

父親である桔便屋の大旦那に隠れて、倅である若旦那は、絵を描き続けています。

ある時、父親にこう言われます。「あたしはちゃんと知っているんだよ。一体お前をどういう料簡なんだ、え? 錦絵描きの真似なんぞして…。しっかりしておくれよ、お前はこの桔便屋の跡取りなんだから」この言葉は、そっくりそのまま祖父である、章太郎の父親が言った言葉と全く同じでした。

こっそり萬画を描いていたのを、マンガ家の真似をして、と。跡取りなんだから、しっかりしろと、叱られたと聞きます。そして、この作品では、唯一の絵描きの理解者は、姉でした。これも、まるで一緒です。章太郎が描いている萬画を一番理解して、最初の読者になったのは、お姉さんだったそうです。しかし、お姉さんは若くして、喘息のせいで亡くなってしまいます。「写楽」という作品でも、全く同じように写楽である若旦那の絵を一番理解していた姉が急死してしまいます。その事と、やりたい事も許されない自分の将来に悲観して、若旦那は首を吊って自殺してしまいます。写楽が忽然と消えたのは、そのせいだと作者は言いたかったのでしょう。

写楽と人生をダブらせた作者、果たして実際はどうだったのでしょうか?自殺こそしなかったものの、一番の理解者である最愛の姉と死別し、悲観せずにはいられなかったはずです。その後、世界旅行に出たのを転機に吹っ切ったと聞きますが、「写楽」の主人公のように、過去の自分と決別したかったからだと思わずにはいられません

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