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「八百八町表裏 化粧師 前編」

子供の頃は見向きもしなかったジャンルも、大人になると味わい深く楽しめるようになるものです。 そのうちの一つに、「時代劇」というジャンルの作品がございます。

特に石森時代劇は、情緒、ムード、繊細さ、深みが感じられ、時代劇を描くときにはタッチも突然本気になったのかと思うほど(笑)、 重厚で緻密な絵柄になり、読後毎回感服します。時代考証も完璧で、それに関しても唸るのですが、これから紹介する作品に関してだけは、 それを意図的に吹き飛ばしているのではないかと思うほど、現代劇の要素を組み入れております。

主人公は、式亭小三馬という江戸の化粧師。 現代風に言うと、メイクアップアーティストです。捕物帳や人情ものなら山ほどある題材ですが、時代劇を描くのに、メイクアップのプロを題材にするところな ど、今まで誰も描いたことのないテーマの作品を描こうという意欲に満ちていますね。 現代でもメイク業界やアパレル業界などファッション関係の仕事は時代の最先端をいく世界ですが、その職業が江戸時代にあったらという発想からして、石森イズムを感じます。

ネットでこの作品を検索すると、作品紹介では、主人公の江戸文化を演出する手法は、現代の広告業界にも通じる斬新なもの、「日本経済入門」と並ぶビジネス萬 画と書いてあります。

この紹介は目から鱗でした。

今までこの作品を読んでいても、江戸時代の メイクアップアーティストの物語だとは思いましたが、ビジネス萬画という感覚にはならなかったからです。 でも、この紹介を目にして、再び萬画に目を通してみると、今ままで読んだことのある作品と同じものを読んでいるとは思えないぐらい、 世界が広がっていくのを感じました。

多ジャンルを描き、多くの視点から創作に取り組む作者ならではの作品だと思います。 “江戸時代が舞台のビジネス萬画”これを聞き、まずます設定の斬新さに気付かされました。 未だかつて、時代劇のビジネス萬画を描こうとした萬画家がいたでしょうか? これで、この萬画作品がどれだけ先鋭的かお分かりかと思います。

次回もまた、この新分野の時代劇の話を。

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