「水色の星」

有名な作品にも触れたいと思いますが、どちらかというと、余り知られていない作品の方を紹介したいという気持ちも強く持っております。特に短編作品は、よほど石森作品が好きな人以外は、全く触れる機会がないかと思いますので、今回も、そういう作品を紹介したいと思います。

石森作品は、実験の宝庫と思うほど、新しい試みに数多く触れることが出来ます。今回取り上げました「水色の星」も、初期の作品郡の中でも、ずば抜けた意欲作、野心作に違いありません。ストーリーはいたってシンプルで、歌劇の女優レオニードは貧乏学生と恋に落ちてしまうが、歌劇団長と彼女と奪い合わなければならなくなる、というもの。

ただ、この作品はストーリーというより、その手法、画に強烈な実験性と意欲を感じるのです。コマを大胆に大きく割って、セリフの吹き出しもありますが、絵本のようにセリフを文字で並べる場面もございます。これは造語をもし作るなら「絵本マンガ」とも言うべき試みです。だから、マンガ作品を読んでいるような気にならず、不思議な感覚に陥るのです。

もう一つ特筆すべきことは、その絵のタッチ。大人が鑑賞しても納得出来るほど高尚な絵柄。それを羅列しながら物語を紡いでいきます。一つ一つのコマを暫く眺めていたくなるほどのクオリティ。登場人物画もデフォルメした劇画タッチで、それまで築いてきた作者の世界観を覆すほど。明らかに、マンガのつもりで作者は書いていないでしょう。一コマ一コマをまるで絵画を描いているようなつもりだったのではないでしょうか。

これを少年マンガ誌か少女漫画誌かわかりませんが、とにかく子供たちに読んで貰う為の雑誌に発表しています。主演女優を若い男と団長で奪い合うストーリーもさることながら、このタッチや手法を「おそ松くん」や「オバケのQ太郎」が受けていた時代に、この作品を描いていたことが凄い事だと思います。決して守りに入らず、実験や挑戦をし続けていく姿勢に、僕はこれからもリスペクトし続けるでしょう。

後に女流マンガ家を目指す女子と熱狂的なコアな大人の読者、そして彼の才能を認めた玄人の方々から支持があったのは頷けます。石森をメジャーにした「仮面ライダー」を発表したのは、これから、およそ10年後の話です。

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