役者も演技が歳を追うごとに変わっていくように、萬画家もそのタッチが変化していくようです。ちばてつや先生が、あるインタビューで「あの時描いた矢吹丈を、現在書けと言われても、全く同じタッチでは書けない」と言っておりました。その時その時でタッチが変わっていくので、若い頃に描いていたタッチで現在は書けないと仰っているのです。
石森もそのようです。勿論、ジャンルによって意図的にタッチを変えているのは分るのですが、明らかに初期から中期、そして晩年では基本のタッチが変わっています。ちょうど、ビックコミックという大人が読める青年誌が出来てからの数年、「仮面ライダー」や「リュウの道」、「サイボーグ009」なら≪天使編≫の辺り。とても絵のタッチが劇画調で大人っぽいのです。
実は、この頃のタッチが僕は好きでしてね。繊細で重厚、それと品があって高尚な作品に感じます。
今回ご紹介する『変身忍者嵐』も、その一つ。最初の1ページ目を開くと、一瞬、これは「佐武と市捕り物控え」ではないかと思うほどの重厚感。本当に少年誌の連載なのかと見間違わんばかりです。
最初の「仮面ライダー」の連載もそうなのですが、萬画原作を読むと、ハリウッド映画のように、真剣に大人の作品としてヒーローものを創って貰いたいと思ってしまいます。
この絵柄を見ると、そのタッチから余計にそう思うのです。特に『変身忍者嵐』は、時代劇です。時代劇のヒーローは「ライオン丸」や「仮面の忍者赤影」など、それまでも無いわけではありません。基本的には、勧善懲悪で描く時代劇のドラマにヒーローは似合うシチュエーションです。「必殺仕事人」だって、昼の顔とは違う夜の顔を持つ、変身ヒーローです。
鷹や鷲をイメージした鳥人のデザインが、また奇抜で、石森しか描けないと思ってしまいますね。大人の作品として、是非リメイクしてもらいたいヒーローの一人です。