役者の世界では、“動物と子供には敵わない”という言葉があります。どんなに名優が頑張っても、動物か子供が登場したら、全部食われてしまうという意味です。実際に自分がその世界にいますと、それは如実に感じます。その事を、石森は知ってか知らぬか、サイボーグ009の初期に、動物を登場させています。しかも、短編作品に―。
一つは「黄金のライオン編」。アフリカを舞台に核物質のアイソトープを餌にするライオンの物語を描いています。そして、「クビクロ編」。サイボーグ009は、長編作品もちろんワクワクドキドキしますが、各サイボーグにスポットを当てた短編作品は、心の機微に触れるような情緒溢れる作品が多く、とても味わい深いのです。
飼い主と一緒に交通事故にあった子犬を主人公のジョーが助け、一緒に暮らし始める。頭にある傷を見て、改造犬だと知りながら楽しい時間を過ごすが、ひき逃げ事故の犯人の存在を知ると、復讐しに行き、改造能力である念力によって、犯人を燃やしてしまう。その件で、ジョーは助けたことを後悔し、最後は闘わなければならなくなってしまう。
これが人間でも感動する物語かもしれませんが、やはり犬という設定が、絶妙だと思いました。春に出会い、夏を過ごし、冬に別れが訪れる、サイボーグ009のテーマでもある、“誰がために闘う”事を短いページ数で、犬を登場させて語らせたところに、作者の意図が伝わります。
僕が子供のころから、家には、最盛期には10匹を超えるほどの犬がおりました。念力で人を発火させる能力を持つ人間の物語が、後年ある作家の方が書かれておりましたが、人間と寄り添いながら、子犬から短い時間で育っていく犬の悲しい結末は、犬好きの自分じゃなくても、涙なくして読めないでしょう。これは、間違いなく珠玉の一作です。