「石森章太郎読切劇場 鋏 はさみ 第4回」

単行本の紹介記事に、この作品を“衝撃作”と綴ってありました。 それは、この作品がメタフィクション、いや、本当に実話だったかもしれないからです。 作者がこの世にいないので、その真意を確認する事は出来ませんが、もし架空の話だったとしても、余りにもリアリティがあるために、 実話だと信じてしまう読者の方が多いでしょう。
トキワ壮から結婚後までの間、アパートに遊びに来ていた姉妹にまつわる話です。 マンガを描いていて、作者にそれを見せに来ていたファンが、著者とファンという関係以上に親しくなり、作者の結婚を機に、会わなくなる。 数年後に姉が訪ねて来るが、トキワ壮時代に妹がアパートに訪ねてこなくなったことを気にしていた作者がその理由を尋ねます。 すると姉は妹の話をし始めます。デザイナーに恋をしてしまうけど、その人の前にフィアンセが現れ、余りのショックで手首を鋏で斬って自殺を図り、 精神病院に入院していると言います。しかし最後は、妹ではなく姉本人の話だとわかるのです。それは、彼女の手首に斬り傷があったからです。 そして、その彼女からのプレゼントが、真っ赤な血に染まった鋏でした。
これを、細かいディテールで描いていきます。

トキワ壮時代、姉妹と一緒に観た映画が、「ウエストサイド物語」。新宿を散歩し、新宿御苑の芝生で寝転がる。 東京に住んでいる者からすると、この行動パターンは非常にリアリティがあって、そのうえ、偽名こそ使っておりますが、所謂、 妻も登場し、 そして、赤子の 子供まで出演しちゃいます。 当然のことながら、妻もソックリに描いておりまして、作者の性格や様子を知っておりますと、ますます真実味を帯びてくるのです。 ただ、、、ちょっと、自分をカッコよく描き過ぎかなぁ、、(笑)そんなにモテているとは思えないんですよね(笑)
まぁね、故人を揶揄するのは、本意ではないので、このくらいにしておきますが、他人が読んでも衝撃作なわけですから、 それを身内や親しい人が読んだら、超ド級の衝撃作ということになります。 マジシャンの手品のように、種も仕掛けもあるのに、真実の出来事だと思わせることも一流のエンターティメントだとしたら、 この物語が仮にフィクションだとしても、ここまで人々の心を揺さぶる作品に到達したのなら、読み物として大成功だと思います。 僕としては、この場で、この作品はきっと真実でしょうと、言っておきたい。ここに登場する石森は、本当にカッコいいです。 そのイメージを、そのまま壊したくはないのです。

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