僕も何十と言う単位で戯曲を創作しておりますが、自分が好きな作品の一つに「ほろほろ」という、唯一の時代劇作品があります。しかし、もっと正確に言うと、現代と江戸時代を舞台にリンクしながら物語が進むので、完全な時代劇ではありません。むしろ例えるなら、ファンタジー作品です。
江戸時代の謎の絵師、写楽が描いた最も有名な役者絵、その張本人である大谷鬼次が主人公の作品。江戸時代のその歌舞伎俳優が現代に現れ、江戸時代と現代を舞台に綴る物語は、殺人事件の犯人を追いながら、“写楽”とは誰か、その謎の真相に迫るミステリーでした。
忘れもしません。この作品の初演は、石森が最後の入院中で、未だに目を瞑ると、病院に顔を出しながら稽古に通っていた日々を思い出します。その際、自分が書き下ろした作品がどんな物語か興味を持ってくれて、色々と僕に聞いてくれました。≪写楽≫を題材に書いた。と伝えると、「物書きは、誰でも一度は、写楽のことを書きたくなるんだ」直ぐにそういう返答を渡されました。
江戸時代に彗星の如く現れ、役者絵の版画で一世を風靡し、わずか一年足らずで忽然と姿を消した絵師。残されたのは作品のみで、その人物像を語る書物が残されていないため、写楽は一体何者なのか、未だにその謎は解明されていません。
有名画家のダミー説から、複数の共作説、そして無名の新人を売り出すために、版元の蔦谷重三郎があえて謎めいた人物にプロデュースしたという説まで、諸説入り乱れております。
自分もそうですが、確かに、そこを推理することは非常に楽しく、作品で描きたくなります。その話をした後に、では、石森作品では、写楽を題材にしたものは何があるのか、とても興味を持ちまして、探してみました。
ありました、ありました。僕が知る限り、三作品。『佐武と市捕り物控』で「しゃらくせい」という傑作長編作。それと、読み切り作品で二作、「東洲斎写楽捕者帳之内・早春殺」と「写楽」。石森作品の時代劇は、時代考証から作品を包むムード、その構図、物語まで、どれをとっても秀逸で、傑作揃い。今回は、その中で、しかも≪写楽≫を題材に描いた作品のうち、『写楽』という作品の事を語りたいと思います。前置きが長くなりましたが、また、それは、次回に。