よく僕は石森にこう言われました。「才能は、1パーセントにすぎない、その99パーセントは努力なんだ」僕の胸には、幾つもの言葉が刻まれ、それを大切にしています。特にこれは、自分の人生観にも反映するくらい、影響力のある言葉でした。そんな事を想いながら、作者のデビュー作を久々に開いてみました。「二級天使」という高校生の時に描いた作品です。その事実を知りながら読み始めると、1ページ目から「これは100パーセント才能が無いと描けないだろう」と感嘆しました(笑)
当時、マンガというジャンルも確立されていない時代に、お手本となるような教材もない中で、自らのイマジネーションを頼りに、高校生がここまでの作品を描けるのは、才能や感性が豊かでなければ不可能だと思います。それほど、キラキラとコマの一つ一つから、ほとばしっております。どんな作家でも、処女作に、その作家性や将来の指針が見えるものです。もちろん萬画家・石森章太郎の処女作にも、端的にそれは現れています。
まず、そのテーマ。二級の天使という設定が、決して普通のエンジェルの物語にしないぞという気構えが感じられ、ひとひねりしようとしている工夫が感じられます。ヒーローを描くときに、主人公がコンプレックスを抱え、その人物像に影を与えるように、一級ではない、翼を持たない二級の天使という主人公が実に“らしい”と感じました。そして、その画力もさることながら、コマ割りなどのビジュアル面での実験性も、将来稀有の天才萬画家と称されるまでになる片鱗を充分感じさせてくれます。特に、3~5話の「一本足の兵隊」という物語では、俯瞰の構図を駆使し、1話ずつ急激に進化していきます。個人的に好きな物語は、「雨」という作品。セリフを極力抑えて、絵だけでストーリーを語ろうとする試みは、将来描く「ファンタジーワールド ジュン」にも繋がっていきます。
しかも、この作品が異色なのは、一度も主人公が登場しないのです。
風呂敷に包んだ箱を持った中年男性が、それを捨てようにも、アクシデントが続き、全く捨てられない。娘が可愛だっていた犬が産んだ子犬を捨てようとしているのだと途中でわからせるのですが、最後は線路に置いた箱に列車が近付き、親犬が飛び込んで行くことに、男が震え上がるけど、それを主人公ピントが助け、ハッピーエンドで仲良く犬たちと帰る男の姿で終わります。箱の最後までサスペンスとして引っ張らなかったのは、若さ故だと思いますが、主人公は最後まで出さないのは、相当な大人の表現だと唸ります。