「カラ公ものがたり」

 

 

石森の実弟にあたる弘幸さんから聞いた話です。子供の頃に、宮城県の実家でカラスを拾ってきたことがあって、こっそり飼っていたらしいのです。僕の祖父にあたる、石森の父は、孫に対しては優しい祖父でしたが、実子に対しては、それはそれは厳しい親だったと聞きます。何をやるにしても厳しく、もちろん、萬画を描くことすら許されない、ましては、動物を飼うことだって許されなかったはずです。

そんななか、拾ってきたカラス。これは、弘幸さんなのか、石森が拾ってきたのか定かではないのですが、とても可愛かったと聞きます。犬やイルカもそうですが、知能がある動物は、我が子のように可愛く思うものです。カラスだって、その知能たるや、鳥類の中ではかなり優れています。

 

僕も何度か目撃した事がありますが、例えば、クルミを銜えて、路上に落として、何をしているのかと思えば、車が通るのを待ち、車の車輪でそれが割ろうとしているのです。割れたら、中身を銜えて去って行きました。東京のカラスは、ゴミをあさる天才です。どんなに網を掛けても、その網の端を銜え、器用に持ち上げ、狙いを定めてゴミ袋を引っ張り出し、食べ物を銜えて去って行きます。そして、巣ではない、工事中で組まれていた管の穴に一時保管し、何度もそれを繰り返し、ゴミ袋から物色し終わると、今度はその穴から、少しずつ巣に運んでいきます。先日、その様子をしげしげ観察して、あまりの頭の良さに感動すら覚えました。

さて、その少年時代にこっそり飼ったカラスは、名前を覚えるくらい賢かったそうで、何処か遊びに行っても、名前を呼ぶと二階にある石森の部屋の窓から入ってくると聞きました。それが、カラ公という名前かどうかは分かりませんが、弘幸さんは、「カラ公ものがたり」は絶対に、その時の経験で書いている、と言っていました。拾ってきたカラスが近所の苦情により、厳格な父が捨てようとするが、何とか回避するために子供たちが奮闘します。最後は、畑を荒らす外敵駆除用の農薬入り団子を食べて死んでしまいます。確か、実際に飼っていたカラスの最後も、農薬団子だったと記憶しています。初期の作品ですが、この頃から鮮やかなメタフィクションドラマを描いているんですね。

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