一つのテーマで描く短編集と違って、好き勝手に自分の描きたいテーマを縛られることなく、読切で発表できる場はさぞかし楽しかったのではないでしょうか。 石森章太郎という創り手は、もちろんプロとしてエンターテイメントに徹する機会は多いのですが、 気質としては、割と前衛的なものが好きな傾向にあるような気がします。
SF映画で例えるなら、「スターウオーズ」と「 2001年宇宙の旅」なら、後者の方が圧倒的に好きなように。
特にこの「読切劇場」は、そんな作者が自分のやりたい世界を、読者に遠慮することなく描いているように感じるほど、コマからその想いが溢れ出ているようです。 毎回自分のやりたい世界を、違った切り口で実験していく、その不思議な世界の扉を、一作ずつ開いていくことは、読んでいる方も、 色々な世界観を幕の内弁当のように楽しめて、しかも、大人の鑑賞が出来るように、答えを読者に投げ掛けてくれます。
今回ご紹介する「だまし絵」という作品も、その一つ。タイトル通り、見る人の錯覚によってさまざまに見える騙し絵の如く、読者を次々に欺いていく作風は、 逆に痛快にすら感じます。
ある男が少年時代から突然未来へ飛び、核戦争後の世界かと思われるほど荒廃した地球で女性と逢い関係を持つとUFOに追われ、すると、それはバーチャルで、それ専門のショップになり、近代未来の世界に誘う。そこでストリートガールと関係を持ったかと思えば、気付くと現代の病院。女性恐怖症の催眠治療だったというオチかと思えば、 他惑星の宇宙人に飼われた地球人の飼いならす為の治療だったという、本当にオチで終わらせます。この騙し絵のようなストーリー展開に、読者はまんまと騙されていく様をきっと思い浮かべながら、作者はきっと筆を進ませていったでしょう。 読書中、ほくそ笑みながらドヤ顔をする作者を思い浮かべてしまいました。
「読切劇場」を単行本で読んでおりますが、パラパラとページをめくるだけで、作品ごとの絵のタッチも変え、 時代劇あり、SFあり、怪談噺もあり、メタフィクションあり、それだけでもワクワク致します。 だから、もう少しこの「読切劇場」について、お話しさせて下さい。