僕の創作芝居を観た先代は、自分から感想を言うことは滅多にないのですが、僕が聞きに行くと、必ず的確なアドバイスをくれます。
その中で、最も印象に残っている言葉があります。
「当たり前の作品を作っていちゃダメだ。どうして実験をしない?実験しなきゃ、実験」
この言葉を聞いた時に、先代の作家性や、作品と向き合うスタンスを凝縮した格言に聞こえ、とても重く胸に刺さりました。
“実験なくして、進歩はない”
石森章太郎という萬画家は、いつもその事と対峙し、あくなき挑戦をし続けてきたような気がします。
ある時、そのスタンスに合致する雑誌と先代は出逢います。
「月刊COM」、1967年に虫プロ商事から創刊された雑誌です。作家性を重んじて、前衛的な実験が出来る場所だったと聞いています。
そこで連載を始めたのが、「ファンタジーワールド ジュン」でした。
六十年代後半は、マンガを読み始めた子供たちが青年や大人になり、世の中とリアルに向き合って、学生運動などで熱くなっていた頃。夢物語のようなマンガより、若者たちは劇画を好むようになっていました。
子供にはちょっと難しかった「サイボーグ009」が青年層から支持されたのも、この頃だったと思います。
自分の得意なジャンルの話をさせて頂きますと、演劇界も六十年代ほど、社会に迎合するような作品がなかった時代もありません。世の中の風潮に合った、社会に反発するようなエネルギーを持つ前衛的なアンダーグランドが支持されていたのです。
このような時代に、打って出た作品。僕は石森章太郎という萬画家が、最も実験して描いたのが「ジュン」だと思っています。
今僕は、“打って出た”という表現を使いましたが、本人としては、そんな意気込みはなかったかもしれません。描きたかった事を、遠慮なく書いてみた、という表現の方が的確かと思います。
この実験作、自分が最も好きな石森作品は「リュウの道」なのですが、それと双璧するくらい好きな作品です。
当然、一回では語り切れません。