石森プロから「石森作品を追いながら、自分の感じたままのエッセーを連載しないか」と打診を受けまして、こうやって回を重ねておりますが、一つ一つ作品に触れていく事によって、僕が世界中のどの誰よりも尊敬してやまない石森と、こうして向き合える時間を頂けたようで、毎回とても嬉しく、ワクワクしながらキーボードを叩いております。
そんな機会の中、自分も触れた事のなかった作品に出合ったりすると、お宝を発見したような気持になり、モチベーションが一気に上がります。特に初期の頃の作品は、本人も心底楽しみながら萬画を描いている感じがして、コマから生き生きと躍動感を感じられるので、僕は好きです。もちろんこう書くと語弊もあるかと思いますが、中期や後期には、テクニックも覚え、その時期にしか描けない者を描いていたと思うので、そこはそこで僕も好きなのですが、何と言いますか、フィギアの選手に例えると、ジュニア時代は怖いもの知らずで、リンクで演じることが楽しくて仕方がない感情が演技から伝わってくるのですが、大人になり責任も背負うと、失敗は出来ないという呪縛からか、ジュニアで魅せた満面の笑みも観られなくなる人が多いような気がしています。
「売れた後に本当の苦しみが待っている」これは石森が云った言葉です。
今回ご紹介する作品は、恐らく、その苦しみをまだ知る前の、短編作品です。正直、この機会がなければ、自分自身、この作品と生涯出逢うことはなかったでしょう。『きりとばらとほしと』という三部作の短編オムニバス作品。ドラキュラ伝説をモチーフに、吸血鬼リリーという美しい女性を、1903年、1962年、2008年という三つの時代で描いています。描いた当時は、この年号でわかる通り、1962年だと思います。所謂、過去、現在、未来を描いているのです。
この作品で作者本人が、こう綴っています。
「科学や文化の発達に従って、だんだん消えていく迷信や伝説―つまり「ゆめ」―の世界に、まんがでなければかけないファンタジー(幻想)の世界に、みなさんと一緒にはいって、しばしのひとときを楽しみたいと思うのです」
そのファンタジーの世界へは、また次回。