「トキワ荘のチャルメラ 前編」

やっぱり環境って、とても影響力のあるものですね。プロ野球の好きなチームがジャイアンツなのも、趣味が映画鑑賞と読書なのも、全て影響を受けるからだと思うのです。お酒は呑みますが、ずっと自分に晩酌の習慣がないのは、家がそうだったからに違いありません。夕ご飯は食べても、その後徹夜で仕事をするので、夕時にお酒を口にする姿を見たことがなかったからです。食の趣味もそうです。ラーメンが好きなのも間違いなくそうです。この思い出は特に強い。

生活のサイクルが、徹夜で仕事をして、そのほとんどの朝、少年時代から青年時代にかけての僕ら兄弟を見送ってくれます。学校から帰ると、既に仕事をしているわけで、僕らが学校に行っている数時間を睡眠時間に当てているのです。時折、朝ご飯を作ってくれます。朝ご飯と言っても、ラーメン。

そりゃ、就寝前の人にとっては夜食になりますけど、僕らにとってはブレックファーストですよ(笑)
だけどね、朝ご飯であろうと、作ってくれるラーメンは、未だに深い思い出として、心のアルバムにしまわれています。何種類ものインスタントラーメンとその日のお味噌汁なども混ぜて、香辛料も何種類か使い、特徴的なのは、作っている最中に、生玉を投入して、目玉焼きがちょっと崩れた感じの卵が必ずラーメンに浮かんでいるのです。

僕は子供の頃、ラーメンには全てそういう卵は入っているものだと思っていましたからね。ラーメンに卵と言えば、ゆで卵や煮卵だと知ったのは成人近くになってからです。

今や、東京などは不味いラーメン屋を探す方が難しくなっています。ほどほどな味でも、お客さんが入らなくなるほど、ラーメン激戦区なのです。僕自身もそんな味に慣れてしまったので、現在、石森特性ラーメンを思い返しても、決して超美味しい味でもなかったでしょう。所詮はインスタントラーメンのブレンドが主体なわけですから。

ですけどね、よく料理人も「心」だと言う人がいますが、それは本当の事だと思います。本当に楽しそうに、あるモノを工夫して使い、インスタントだけどアイデアで美味しくしようと必死な気持ちと、何よりも自分の子供達に喜んでもらおうと頑張って創作したラーメンは、不味いわけありません。どんなに行列が出来るラーメンと比べても、これほど心に残る、思い出深いラーメンは他にないでしょう。

Shotaro Ishinomori I saw