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小林康毅

株式会社秋田書店 チャンピオンRED編集部 副編集長。同誌にてシリーズ連載中の「8マンVSサイボーグ009」の他、多くの著名なマンガのリブート作品の担当をされている。

◆先生の作品は、画としてのインパクトよりも作品としてのインパクトが強かった印象

そもそも石ノ森先生との面識はないですよね?

ないです。(亡くなられるまでに会うことには)間に合わなかったですね。お見かけしたこともないんです。

では最初の石森プロとの接点は?

7、8年ぐらい前に『チャンピオンRED』で『サイボーグ009』の「移民編」の現代版リブートみたいな事が出来ないかご相談に伺ったことがあって、それが最初の接点ですね。

なぜ「移民編」だったんですか?

「移民編」が好きだったという事と、そもそも「移民編」は弊社が発行していた『冒険王』の連載なんです。なので、ルーツがあると。「移民編」はロマンチックなオチもありつつ、且つ現代的な要素もすごくあるエピソードなのでちょっとお願いしに来てみたんです。
その時は実現しなかったんですが、月日が流れて、別件で早瀬(マサト)先生と面識が出来て、新しい形で『009』がやれそうだという話になりました。ご相談しているうちに岡崎(つぐお)先生のお名前が出て、じゃあどういう形にしようかとなって。その辺りの詳しい話は先日の岡崎先生のインタビューの通りです。

石ノ森先生の作品で最初に出会ったのは?

サイボーグ009』ですね。アニメの第2期をやっているときにマンガも読んで、当時は書店で立ち読み出来たんですが、貪り読みました(笑)。それで愛蔵版で『009』を全部そろえましたね。
当時ちょっと昔のマンガがワイド版や愛蔵版でたくさん出てた時期で、それで石ノ森先生の作品をだいぶ読みました。なので、特撮番組などから入ったワケじゃないんです。『仮面ライダー』じゃなくて、やっぱり『009』でしたねえ。あとは『幻魔大戦』とか。
『週刊少年ジャンプ』が全盛の時期でしたが、何か違うものを読みたくて、それで石ノ森先生や永井豪先生、松本零士先生の昔のマンガを読んでました。こんなマンガ表現があるんだな、ルーツなのに新鮮だな、マンガにはこんないろんなバリエーションがあっていいんだなってかなり惹かれましたよね。『キカイダー』や『009』のハードな感じのベクトルが、『少年ジャンプ』などに掲載されてるマンガのハードさと違うんですよ。ストーリー的なハードではなくて、エンターテイメント度の骨格がハードというか。

やはり一番好きなのは『009』なんですね。

そうですね。『009』なども顕著なんですが、石ノ森先生って時代に対する問題意識を描かれるんですよ。そういうのを強く持たれてた世代の先生じゃないですか。今はそういう作りの作品ってあんまりないんですよ、実際。感性の時代っていうんですかね。それが当然悪いわけじゃないんですけど、感覚的に乗れるか乗れないかが非常に重視されてるようなところがあって、対して石ノ森先生やトキワ荘世代の先生たち、その近辺の方たちって、もっと時代に対するテーマを掘り下げていく感じがあって、そこにすごく惹かれちゃうんですよねえ。

ほかに好きな石ノ森作品はありますか?

いろいろあります。大学生になってからはマンガマニアな感じになって、『黒い風』や『龍神沼』、『あかんべぇ天使』とか夢中で読みました。短編もすごく素敵ですよね。幻想的で。アクション物も好きです。『イナズマン』のハードな暗さも惹かれました。『HOTEL』も好きです。また違うラインの石ノ森先生っぽさというか。
単行本はかなり集めました。もう完全にコレクターでしたね、はい(笑)。朝日ソノラマのサンコミからメディアファクトリーの『Shotaro World』あたりも全部そろえましね。

ちなみに一番探すのに苦労したのは何ですか?(笑)

水色のリボン』かな。

おお!見つけたんですか?

ちょっとマニアックな話なんですけど、『水色のリボン』って落丁本が多いんですよね。巻頭についている折り込みが大体抜けてる。その落丁本を持ってました。

凄いですね(笑)。

あとは、石ノ森先生が表紙の絵を描いていた『プレイコミック』も一時期集めましたね。創刊から50号ぐらいまで通巻でそろえたんじゃなかったかな。でも石ノ森先生はやはり、画としてのインパクトよりも作品としてのインパクトが強かった印象があります。
コマや絵単体よりも、個々の作品のイメージが強いですよね。他の作家先生の作品だと、ストーリーを覚えてなくて画のインパクトで覚えている感じが多いんですけど、石ノ森先生の作品はストーリーをしっかり覚えているパターンが多く、つまりストーリーにすごく惹かれていたんだなと思いますね。それから、キャラクターの設定が抜群に上手い。生い立ちやバックストーリーがすごいんですよ。

◆編集者の目線で読むと、プロデューサーとしての石ノ森先生は本当に天才だったんだなと

いま小林さんが『チャンピオンRED』で『009』以外に担当されてる作品は何ですか?

早瀬マサト先生の『8マンVSサイボーグ009』、島崎譲先生の『銀河鉄道999 ANOTHER STORY アルティメットジャーニー』と、山田J太先生の『エコエコアザラク REBORN』、久織ちまき先生の『聖闘士星矢セインティア翔』、それと嶋星光壱先生の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』です。昔の作品のリブートが多くなっちゃってますね。
スーパーキャラクターってなかなか生まれないんですよ。そういうスーパーキャラクターを描き繋いでいくのが、実はいまの日本のマンガのタームなのかもしれないなって思ってるところがありまして、マーベルやDCはそれをずっとやってますよね。自分が愛してきて、次の時代に繋いでいきたいなっていうキャラクターや作品をやるのが今の自分の使命かもしれないなと思ってます。

ビッグタイトルやスーパーキャラクターを扱う難しさもありますよね?

やはり、まずは好きじゃないとできないだろうなと思います。勘所があると思うので。誤魔化しがきかないっていうんですかね。やはりコアとなる部分をしっかり分かってないとダメじゃないですか? じゃあ、『009』のコアって何なんだ? 『銀河鉄道999』のコアって? 『聖闘士星矢』だったら何? そこを考えながらやってますね。
下手なことはできないっていうプレッシャーは常に感じてます。作品自体にも作家先生にも失礼があってはいけないのは前提で、ただのビジネスになってもダメだなと思ってます。ビジネスプラスαというか、当然ビジネスにならなきゃいけないけど、プラスαをどれだけ熱量で持てるのかっていう。
例えば、『009』の作品の良さを失わないようにしつつ、岡崎先生の作家性も活かすにはどうしたらいいか、岡崎先生の作家性をスポイルしては意味がないので、『009』らしさがありつつ最大限、岡崎先生らしさを発揮させることができるものは何だろうなっていうところはすごく考えますね。

一読者、一ファンとして読んでた時と、編集者になって読むのと、石ノ森作品の見方は変わりました?

そうですね。編集者の目線で読むと、プロデューサーとしての石ノ森先生は本当に天才だったんだなと思いますね。もちろんマンガ家としても天才なんですけど、プロデューサーとしての能力を発揮できる人って、作家としてはかなり特殊なんじゃないでしょうか。
『009』も時期によって全然コンセプトも作品も違ってくるし、その時代に合ったアレンジをされるんですよ。新しさをフィットさせてくというか。新しさを取り入れて行くことって言うほど簡単ではないんですよ。編集者には新しいものに対する恐怖感がどこかにあるんです。もともと人気があったものに、新しさを取り入れて大丈夫なのか?新しく変えてしまって大丈夫なのか?そういう恐怖感を石ノ森先生からは全く感じないですよね。むしろ同じことをやってもしょうがないという感じですよね。

もし、いま石ノ森先生に連載を頼むとしたらどんな依頼をしますか?

そうですね~……。難しいです……。

『チャンピオンRED』ならやはり『009』の新作ですか?

でもそれだと面白くないですよねぇ。編集として、他の人が頼みそうな事を頼みに行っちゃうのは、なんかちょっと(笑)。多分みんな頼んじゃうと思うんですけど。
何なんだろうな。…雑談から入るかもしれないですね。決め打ちで行かないで。いまどんなことに興味ありますか?みたいな、マンガに繋がるかわからないようなことも含めて話して、マンガにならないことをマンガにしてくれって言っちゃうかもしれないですね。普通に考えるとやらないようなものを、石ノ森先生だったら出来るんじゃないですかねっていうような。そういう変化球をお願いしちゃうかもしれないです。
あるいは、ありきたりな企画を投げて、それを石ノ森先生がどう料理されるのか、とっかかりプラスαでどんな作品になるのかも見たかったですね。石ノ森先生はありきたりのものを、ありきたりのものにしないのではなくて、ありきたりなものを入れた上でさらに全然違うものを乗っけて行く方だったんじゃないかと思います。
ホント、お会いしたかったなぁと思いますね。