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いつもと違う夏だから、積極的にいつもと違う楽しみ方をしてみよう。重い荷物もいらない。移動でヘトヘトになることもない。と考えると、実際に遠くへ足を運ぶよりも、人間に与えられた「想像力」というチカラで旅するのも悪くない。この夏、石ノ森作品で、世界中を旅しませんか?(石ノ森作品なら宇宙や過去&未来へのタイムトラベル先も充実!)

北アメリカ

まだ個⼈の海外旅⾏が許されていなかった1961年、弱冠23歳の⽯ノ森章太郎が世界一周旅行をした際、初めて降りたった海外がアメリカ(ホノルル)だ。そこから70⽇間の世界旅⾏が始まるのだが、「ザ・海外」とも⾔えるアメリカの記憶は強烈だったようで、代表作のサイボーグ009でも、ニューヨーク出⾝のサイボーグ002ジェット・リンク、⻄部出⾝の005ジェロニモ・ジュニアと、それぞれキャラクターが⼤きく違う2⼈の故郷として設定されている。 もちろんアメリカという国はさまざまな闘いの場として、物語の重要な舞台として、数多くの作品に登場。『仮⾯ライダーBlack』『幻魔⼤戦』ではニューヨークが。時ヲすべる等の作品でもアメリカが舞台になっている。また、アメリカといえば、⼤のSFファンであった⽯ノ森には格好のテーマを提供してくれる国でもあった。海流が⼤きな渦をつくっているため浮遊物(主に藻類)が多く集まり、⽣物多様性の宝庫であり、同時に「粘りつく海」とも称されるサルガッソ海。さらに通過中の船舶や⾶⾏機が突如何の痕跡も残さず消息を絶つ海域とされるバミューダ・トライアングル…と、「アルかもしれないし、ナイかもしれない」をポリシーとした⽯ノ森の好奇⼼に応えるテーマは数多い。 さらにメキシコではアステカの地がサイボーグ009の舞台になっている。この古代⽂明への想いは、⽯ノ森の作品全体に通底するものと⾔えるかもしれない。

南アメリカ

⽯ノ森で南⽶、ときたら、まっ先に思い浮かぶのが『仮⾯ライダー アマゾン』だろう。古代インカ科学によって改造され……という展開も、前作までとは明らかに趣向が変わっていて、つねに新しいものを求めていた⽯ノ森らしさと⾔えそうだ。『仮⾯ライダー アマゾン』の誕⽣はブラジルであり、『⻘いけもの』でも野⽣の象徴として、また秘境三千キロでもアマゾンが舞台となる。 ⽂明としてのインカ帝国への興味は⽯ノ森の好奇⼼を強く刺激し、サイボーグ009の闘いの舞台としてボリビアが登場する。さらにチリのイースター島に⾒られる巨⽯⽂明や、エクアドル共和国に属するガラパゴス諸島もサイボーグ戦⼠たちのエピソードに描かれ、南⽶の古代⽂明とアマゾンの野⽣の対⽐に強く惹かれていたことが伺える。

ヨーロッパ

世界⼀周を決⾏した⽯ノ森⻘年が、いちばん時間を費やして満喫したのがヨーロッパ。だからなのだろうか、この地を舞台にしたキャラクターや物語はとても多い。サイボーグ009から、003フランソワーズ・アルヌール(フランス/パリ)、004アルベルト・ハインリヒ(ドイツ/東ベルリン)、007グレート・ブリテン(イギリス/ロンドン)の3⼈がヨーロッパ地域の出⾝である。戦いの舞台としてもギリシャやドイツ(ライン川)、アイスランド、スコットランド(イギリス北部ネス湖)、オーストリア(チロル)、フィレンツェ(イタリア)などが描かれている。 シリーズ作品をもう⼀度原点に戻すべく⼿掛けた『仮⾯ライダーBlack』の重要な舞台でも、やはり世界旅⾏で吸い込んだヨーロッパの街の空気が濃密に表現されている。パリやロンドンなどゼロゼロナンバーの仲間たちの出⾝地と重なる都市に加え、世界旅⾏中に古代への想いを馳せたアテネも描かれている。時ヲすべるではルーマニアのドラキュラ伝説も引き、『グランド・ツアー 英国式⼤修学旅⾏』ではヨーロッパ全域が描かれている。

中東

中東の地は特定の国としてではなく、地域全体として描かれることが多かった。『そして・・・だれもいなくなった』内に収められた短編『エスパーK』では中東全体として描かれ、サイボーグ009では「中東編(砂漠のモーゼ編)」として単独のテーマになった。古代メソポタミアの重要拠点バビロンも「イシュタルの竜(シルシュ)編」に描かれている。

アフリカ

アフリカはゼロゼロナンバーサイボーグの008 ピュンマの出⽣地。旧設定ではケニア、現在はコンゴ⺠主共和国(旧名ザイール)とされていて、後者は『サイボーグ009⽔霊(ディイデ)の泉編』でも登場する。アフリカという⼟地が⽯ノ森の好奇⼼を強く刺激したのは間違いない。初めて訪れたのは世界⼀周時のエジプトだが、それをきっかけに興味の幅を広げ、さまざまなアフリカを描いた。サイボーグ009でアフリカ出⾝のピュンマにさまざまな重いテーマを背負わせたことは、⽯ノ森が強い関⼼と問題意識を持っていたことの証左と⾔えるだろう。

 

現在タンザニア連合共和国に属するセレンゲティ(現:セレンゲッティ)は世界⾃然遺産であり、平時は密猟取締官を務めるピュンマが活動している地でもある。ちなみにエジプト(カイロ)は『サイボーグ009 ファラオ・ウイルス編』の舞台としても登場する。さらに、「裸⾜のザンジバル」というスピンオフもある。

オセアニア

オセアニア地域は『⻘いけもの』のメインの舞台とも⾔える。ニューギニアやニュージーランド、オーストラリアへと謎のけものを追う旅は、そのまま紀⾏ものとしても楽しめる。『⼤侵略』ではタスマニア島(オーストラリア)の原住⺠が、とある装置を使って、核保有国と交渉する様子が描かれる。 また『仮⾯ライダーBlack』でオーストラリアは重要な役割を果たす。テレポートでエアーズロックに⾶ばされてきた光太郎は、アボリジニの⽼⼈グムと⽩⼈⼥性フィーチと出会い、世界の破滅について語られる…。広⼤な⾃然と⽂明の対⽐が印象的な一幕である。

アジア

距離的にも⽇本から近いからか、アジアを舞台にした作品は数多い。お隣の中国は、サイボーグ006張々湖(ちゃん ちゃんこ)の出⾝地。もちろん『サイボーグ009の作中にも何度か描かれている。また、『時ヲすべる』では明の時代の中国が。『沙流譚 -漢書-』では中国全⼟にわたった項⽻と劉邦の戦いが展開される。『仮⾯ライダーBlack』では湖北省、『⽼⼦道』では河南省、さらに『⽯ノ森版⽴川⽂庫 ⻄遊記』。⻄遊記といえば中国から天竺、今のインドに向かう冒険の物語。これを⽯ノ森がどう描いたか…がお楽しみ。 続いてネパール。こちらは『仮⾯ライダーBlack』で暗⿊結社ゴルゴムの基地がある場所として描かれている。ヒマラヤ⼭脈を擁する⼟地柄、そこが作中でも重要な部分を担っている。メコン川で接するタイ、ラオス、ミャンマーの3か国は「⻩⾦の三⾓地帯」、別名ゴールデン・トライアングルとして『サイボーグ009 ⻩⾦の三⾓地帯編』で描かれている。以前は世界最⼤の⿇薬密造地帯として知られた地域でもあったことから作中でもこの地域を⽀配する巨悪を倒すためにジョーたち9⼈が⽴ち上がる。 ベトナムも『サイボーグ009 ベトナム編』で濃密に描かれている国。ベトナム戦争のまっただなかに連載をスタートしただけに、まさに避けては通れないテーマだったのだろう。シンガポールとマレーシアは『⻘いけもの』の導⼊部に登場。さまざまな野⽣動物が登場して、人間以外の動物とのかかわり方も考えさせられるかもしれない。

日本

最後は⽇本での舞台について触れておこう。長編『マンガ⽇本の歴史』をはじめ、さまざまな作品中に⽇本での光景が描かれているが、上京まもなく移り住んだトキワ荘(東京都豊島区)は、若きマンガ家として切磋琢磨し合った仲間たちとの想い出とともに、数多くの作品に登場する。トキワ荘物語トキワ荘のチャルメラぼくの部屋にはベートーベンのデス・マスクがあった『⾵のように…背を⾛り過ぎた⾍』…。中でも時ヲすべるではトキワ荘に加え、仲間たちとつくったアニメ制作会社スタジオゼロ(東京都中野区)も描かれている。

同作ではさらに宮沢賢治によりイーハトーブと名付けられたエリア、柳⽥国男の「遠野物語」の舞台である遠野市(どちらも岩⼿県)が活写されている。『サイボーグ009では北海道⼤雪⼭(幻の蝶編)や五島列島(イルカと少年編)ほか、数多くのストーリーが紡がれ、『仮⾯ライダーBlack』では那覇、京都、奈良、神⼾が舞台に。京都は明治維新間近の時代劇ギャグモー度やろうにも登場する。⼭奥に残る不思議な遺跡や現象に思いを馳せたSFロマン星の伝説アガルタで描かれるのは⼗和⽥湖(秋⽥県⿅⾓市)。

江⼾時代の東海道を舞台にしたロードムービー時代劇『流れ星五⼗三次』は、その名の通り江⼾から東海道五⼗三次を上洛する物語。江⼾といえば、⼈情味あふれる⼈々の描写と、見開きやコマ割りを生かした風景描写が豊富な佐武と市捕物控、遊郭で賑わう江⼾吉原を舞台にした『さんだらぼっち』をはじめ、江⼾時代のビジネスマンガとしても読める『⼋百⼋町表裏 化粧師』、実在の⼈物をモデルに描かれた『⼤江⼾医聞 ⼗⼋⽂』など、江⼾時代にタイムスリップしたような気分が味わえる佳作も豊富。また、歴史上の⼈物をテーマにした作品も多く、彼らの暮らしから時代の空気を感じることもできる。北斎では江⼾、芭蕉では “おくのほそ道” 、『⽯ノ森版⽴川⽂庫』では塚原⼘伝の⿅嶋(茨城県)、宮本武蔵の美作(岡⼭県)、猿⾶佐助の今治(愛媛県)が舞台となっている。

そして…⽯ノ森のふるさとが登場する『⼩川のメダカ』。この美しい掌編で、⽯ノ森が育ったころの宮城県登⽶(現︓⽯ノ森章太郎ふるさと記念館および⽣家がある)の⾃然を感じていただきたい。