「幻魔大戦Rebirth」連載を終えたお二人にお話を聞きました!

幻魔大戦の原案はロボットものだった?

石森:連載お疲れさまでした。5年間やってみて、感想というか…いまどんな心境ですか?


七月:そうですね。あれもやろうこれもやろうと思って企画に挑んで、やりきれない部分もありつつも、なんとか完走はしたなあという感じです。でもまだちょっと整理ついておりません。


早瀬:5年目を迎えた頃、小学館さんから「単行本10巻でまとめましょうか」という話があったんです。けれども、それをご提案いただいたタイミングで、とてもまとめきれないと…。

七月:できれば、あと(単行本)一冊分はほしいとご相談して…。

 

早瀬:結果、一冊分増やしてもらえただけでなく、最終回は10ページも増量を快諾してくださって。トータル200ページ以上増やしてもらえました。だからある程度の伏線は回収できて良かったなぁと。この出版不況が叫ばれるなかで、10巻に渡るだけでもうれしい話ですが、11巻も出していただけるのはありがたいなぁ、と思います。

 

石森:七月さんはやり残したことが…とおっしゃってましたけど、例えばどんなことをやりたかったんですか?

 

七月:ひとつは…おととし石森プロさんで平井先生の原作原稿や企画設定書が発見されて、(19)67年当時は幻に終わった設定が明らかになりまして。それを検証していくと、この設定がじつは後年の小説『幻魔大戦』や『真幻魔大戦』にまでずっと生きていて、平井先生の構想に組み込まれていた節があると判明したんです。その設定が見つかったのがごく最近だったため、私たちの作品に組み込むことはできなかったんですが、『幻魔大戦』は機会があれば更に世界が広がる可能性のある作品だなって実感を抱きました。ただ私たちがやれることに関してはきっちり完遂したと思っています。

 

早瀬:その企画書の中にある構想…超能力戦争ではあるんですけれども、そのキーとなるアイテムとして巨人像というのがありまして。中身ががらんどうの巨人像なんですけど、まあ推測するにそれの争奪戦というかですね、超能力をつかってそれを動かすというアイディアがそこに記されていて。そんな世界観が実現したとすると…。

 

七月:もしかしたら『幻魔大戦』は巨大ロボットもののジャンルに含まれてしまう可能性もあったわけです。それが67年当時の構想で立ち消えになったのかと思いきや、そのあと71年の『新幻魔大戦』にそれらしきものが登場しており、それをほのめかすセリフもあったりするんですね。そして、そののち平井先生が80年代に発表する『真幻魔大戦』にその巨人像らしきものが出てくる箇所があるんです。ツイッターに巨人像のことを書き込んだところ、「こういう場面がありますけれど違いますか?」と指摘してくれた人がいて、見逃していたその箇所を発見しました。平井先生がこの設定を無しにしていないことが分かって嬉しくなりました。もちろん別の平行世界の出来事扱いなのか、中断された『真幻魔大戦』の続きとして予定されていたのかまでは不明なのですが、アイディアとして世界観の中に存在していることがはっきりしたんです。

 

石森:その企画書は、作品をつくるにあたり平井先生が石ノ森先生に渡した、ということなんでしょうか。

 

七月:打ち合わせのときに使って、それを石ノ森先生が全部取っておいたんでしょうね。

 

早瀬:基本的に、石森プロはそういった資料を処分せず保管しておく習慣があるものですから、その中で残っていたものですね。またその企画書にあわせて、石ノ森先生の描いた巨人像のラフが添付されていたんですが。『幻魔大戦』の前年の作品『ドクターSF』の中に「巨人きたる」というエピソードがあるんですけれど、それにかなり類似してましたね。

七月:のちに石ノ森先生が描いた『新幻魔大戦』に出てくる巨人像らしきものはそこからまたデザインも変わっていて、何と言いますか、厳めしい神像という趣です。

 

石森:石ノ森先生と平井先生はしょっちゅう打ち合わせをして描かれてたんですかね?

 

早瀬:どうでしょうね? お二人ともお忙しかったでしょうから。しかし意見の交換を頻繁にしていた感じはあるんです。直接顔を合わせて、ではなかったかもしれませんけど。

 

石森:七月さんと早瀬さんは?

 

七月:ツイッターのダイレクトメールで連絡を取り合ってましたね(笑)。このセリフどうしましょうか?とか、こここうしていいですか?みたいなやりとりを。

 

早瀬:あと通常のマンガ制作とは違うんですけれども、私がネームを描いた段階で、七月さんにも同席していただいてチェックしてもらうという工程をとったんですね。一般論ですが、原作を書く人とマンガを描く人を、出版社は会わせようとしない…というのがあって。そこでトラブルになってケンカにならないように。ただそれをこちらの方から、やっていただきたいと申し出て段取りしてもらったんです。それは最後まで機能して、作品づくりに役立ったと思います。

 

石森:早瀬さんから要望を出した?

 

早瀬:そうです。前年の『サイボーグ009完結編 conclusion GOD’S WAR』のころからそうやっていたんです。なので同じかたちでやりたいと。

 

石森:どういう理由なんですか?

 

早瀬:やっぱり紙に書いてある文字だけだとニュアンスが伝わりにくいということもあるし、私が平井先生の『幻魔大戦』を深くまで把握しているわけではないので、そのあたりの意思の疎通をしっかり取りたいと。昨年末、小学館の謝恩会で藤田和日郎さんが私たち二人を見つけて「原作とマンガ家が仲良くしてるのは珍しいね」みたいなことをおっしゃってましたね。

 

七月:ハハハ(笑)。

 

「再生」への道のり

石森:ちなみに早瀬さんは小説版の『幻魔大戦』も全部読み込んだんですか?   早瀬:いやぁ、その部分はまったく七月さんにはかなわないですよ(笑)。   石森:今回は原作の『幻魔大戦』も把握しなきゃならないし、石ノ森作品もかなり幅広く目を通されたと思いますが…。   七月:その意味では、ちょうどいまデジタル版の全集(石ノ森章太郎デジタル大全)が存在してくれたおかげで、チェックが容易で助かりましたね。いま紙の本で揃えようとすると大変ですから。   石森:七月さんは、初めて石ノ森作品に触れたのはいつ頃ですか?

七月:小学生の時に『サイボーグ009』を読んだのが多分マンガ作品としては入り口になっていますね。もっともそれ以前に『仮面ライダー』や『人造人間キカイダー』などの特撮番組に触れてはいたんですけれど。

 

石森:『幻魔大戦Rebirth』では、石ノ森ワールドのキャラクターがたくさん登場しましたが、あれは話し合いによって生まれたんですか?

 

早瀬:七月さんのシナリオにキャラクターイメージが描かれていたりするんです。それで石ノ森先生の過去の作品から拝借したい、とかそういうこともありました。

 

七月:スターシステムとしてうまく働いてくれたなぁと思うんです。もともと『幻魔大戦』67年版は最後の戦いにさるとびエッちゃんやミュータントサブがいたわけです。なので、それらのキャラクターはレギュラーとして出したいと最初のころから考えていました。それ以外のキャラクターも役柄を変えて登場してもらうというのが今回の試みで。結構うまくいったんじゃないかと思います。

 

早瀬:東丈の友人の矢頭四朗、彼は、石ノ森先生のマンガを見るとあの黒髪ではなくて白い髪だったように書かれてるカットがじつは1箇所あるんです。それを見つけて、今回の『Rebirth』ではジュンに置き換えたんですけれども。まさにジュンも白い髪ですから。ひょっとしたら…案外その、石ノ森先生のやりたかった方に近づいてるんじゃないかなっていう気はしましたね。
あと、七月さんのシナリオが素晴らしいなと思ったのは、元の『幻魔大戦』をなぞるわけではなく、それを知っている人の裏をかくシナリオを書かれたところですね。元の作品を知らない人は新たなストーリーとして読めるし、知っている人には元の作品がミスリードになる形で展開していて。知っていれば2度面白い、知らなくても十分楽しめる、それが導入としてどちらにも親切だなと思ったんです。初見の人もディープなファンも引き込まれるアイディアだと思いました。

 

七月:そこは割と心がけていた部分です。昔の作品に出て来たシチュエーションの再現は旧来のファンが入りやすい入り口になると思ってました。ただ、そのまま同じドラマ展開にしても面白くない。“幻魔大戦2周目”として、同じような場面が出てきても同じ展開にはならない辺りで楽しんでもらえるよう作っていったつもりです。

 

石森:平井先生は『幻魔大戦deep トルテック』で一応シリーズを完結しています。「Rebirth」と名付けたのはどんな意図があったんですか?

 

七月:どういうタイトルにしようかなぁ、というとき、ふっと浮かんできたんですね。新しく生まれるという意味で。

 

石森:なるほど。また早瀬さんから見れば、009の完結編に次いで未完の石ノ森作品にかたをつける大仕事というか…。

 

早瀬:009の完結編が終わって、また新たな企画を立ち上げようという話が石森プロ社内であったとき、私が企画書を書いたんです。それで、009でご一緒していた小学館のクラブサンデー(当時)に話を持っていきました。
2004年にNHKで『火の鳥』のアニメを放送していまして、その後継として『幻魔大戦』をアニメ化しようという企画が立ち上がったんです。それで平井先生にも石森プロに来ていただいて、その際、平井先生からご紹介いただいたのが七月鏡一さんでした。今後の事は七月くんにすべて任せるからというようなことを平井先生がおっしゃっておられて。

 

七月:平井先生、とんでもないこというなあと脇で聞いていて思いました(笑)。そこまで言ってくださったことは大変ありがたく嬉しいのですが当時はとんでもないプレッシャーでした。

 

早瀬:私はマガジン版『幻魔大戦』の続きを見たいと思っていたものですから、平井先生にその後の構想があったらお聞かせ願えませんかと言ったんです。そうしたら、もう忘れちゃって覚えてないよ、と。これからのことはすべて七月くんに任せてるので、と言われたんですよ。

 

七月:それで平井先生のご紹介を受けて私がシリーズ構成案を出したんです。あの67年版の『幻魔大戦』を21世紀に置き換えた話で、なおかつ、その月が落ちてくる展開の先を描くという趣旨で。そのアニメ用のストーリー案はプロデューサーの方にも好評で、これで行こうという話を言っていただけたんだけれども、人事異動で企画が消えてしまいました(笑)。

 

石森:そのときのアイディアは今回の『Rebirth』にも活かされているんですか?

 

七月:最終回のアイディアはそのときすでに考えていたものです。だから今回の『Rebirth』をはじめるときも、以前に平井先生にもご確認いただいていたその最終回の案があったので、そこをゴール地点に考えようと思ったんです。ただ、そんな構想を抱いていてもそこまで辿り着けずに打ち切られる可能性もあったわけで…

 

早瀬:そのときはやっぱり月が落ちてくるんでしょうね、と冗談めかして話してましたね。

増巻に加えて増ページまで

石森:登場するキャラクターは、平井先生版からは七月さんがアイディアを出すとして、石ノ森先生版から早瀬さんがこれを出したい、と言うことはあったんですか?


早瀬:基本的にはないんですが例えば七月さんの書かれたシナリオだと、さるとびエッちゃんの出番がもっと早かったんです。けれど彼女は超能力者としては超一流で何でもできてしまうキャラクターだったりもしますし、またギャグマンガのキャラクターですし。破壊力があまりにも強すぎるので、まだこのタイミングで出すのは早いんじゃないかという話をしました。そこはこのキャラクターに置き換えたらどうでしょう、とか。あのときはジンとルーフにしましたね。

七月鏡一 マンガ原作者、脚本家。1968年生まれ。1990年、第1回「サンデー原作大賞」入選作『アウトサイドソード』(作画:工藤奏一郎)でデビュー。

七月:出すタイミングをどこにするかは議論しましたね。

 

石森:ダミアンがギルガメッシュになってるのは?

 

七月:あれは当初からの予定通りです。石ノ森先生の作ったギルガメッシュというキャラクターが魅力的で、ダミアンという人物に起用したんです。単純な敵じゃなく、複雑な陰影のある人物として描いて、最終的には共闘する関係に持って行こうと思っていました。幻魔領域編に入ったときに、ダミアンの前世であるギルというキャラクターを登場させられたので、彼をいろいろな角度から描けたと思っています。

 

石森:そういう脚本をもらって、早瀬さんとして大変だった想い出などはありますか。

 

早瀬:いや、まぁ、毎回大変だったんですが(笑)。

 

七月:よく「入り切らない!」ってことがありましたよね(笑)。

 

早瀬:分量的に入らないですねぇ…。とはいえ月刊連載なので、ある程度読みごたえがないと話が進んでいかない、というのもあったものですから…。

 

石森:話を追うだけではスケール感が出なくなっちゃいますしね。

 

早瀬:そう。だから活劇シーンやスペクタクルシーンがあると大ゴマも使いたいですし、入りきらなくなるという不安は常にありましたね。とくに最終回近辺は苦労しました。

 

七月:ある程度、余裕を持って臨みたいなぁ、できれば増ページしてくれると嬉しいなぁ、と言いつつ最終回に入っていったんですよね(笑)。

 

早瀬:で、最終回。やっぱり足りなくなったわけですよ。そうするとシークエンス削るか、増ページお願いするかしかなくて。もし小学館さんが増ページを認めてくれなかったら、終わり10ページくらい入りきらない、もっと意味深なかたちで終わっていたでしょうね。

 

七月:結果的に、最後ちょっと余韻のある終わり方ができたので、よかったです。

自由度・作画の苦労・スターシステム

石森:メカや戦艦のデザインは早瀬さんが?


早瀬:おもにアシスタントにお願いしています。『Rebirth』に出てくる宇宙船は、かつての石ノ森マンガに出てくる宇宙船だったりもします。石ノ森先生がかつて描いた世界観を崩したくないというか、石ノ森先生が内面に持っているメカのイメージから逸脱したくないという気持ちがあるものですから、流用とか引用が増えてきますね。

七月:幻魔領域編の陸上戦艦なんかは生賴範義さんが小説『真幻魔大戦』の挿絵に描いたものをベースにしながら、新たなデザインを起こしていましたね。(※1)。

 

早瀬:参考にするものは参考にして。生賴範義さんは超絶技巧の持ち主ですから、石ノ森先生の世界観に必ずしも一致するものではないのですが、アイディアソースとして参考にすることはありました。

七月:生賴デザインを石ノ森風にコンバートして早瀬さんがデザインしたということですね。ちなみに第1巻に出てくるベガの宇宙船、あれは67年版の『幻魔大戦』では残骸しか出てこないんですよね。あの宇宙船が三角錐型でピラミッドに似ているのは、実は平井先生の小説『真幻魔大戦』の描写なんです。それをあえて早瀬さんに石ノ森デザイン風に描いていただいたわけです。

 

早瀬:石ノ森作品からも「(サイボーグ009)海底ピラミッド編」に登場したピラミッド状の宇宙船を描いているし(※2)。そういったものをアレンジしながらですね。

 

七月:いろんな表現の仕方やデザインの方向性があるのを確認できるので、自由度の高い世界だなぁって思いました。早瀬さんに自由にやっていただければ私は何も言うことありません(笑)。

 

早瀬:私はもう、楽しくやりたいな、という気持ちで。ただネームを描く時点ではいつも、「これを描くの?」って毎回絶望を味わいながら打ち合わせしていましたけどね(笑)。

 

七月:「奉翔族」なんてすごく大変だったんじゃないですか?(笑) これは平井先生にも石ノ森先生にもないこの作品オリジナルの生物宇宙船です。(※3)。

 

石森:これは生物型の宇宙船、たとえばセミ型ということで脚本が来るわけですよね。

 

七月:デザインが上がってきたら思った以上に緻密で「うわーっ!」と思いました(笑)。

 

早瀬:あのセミは志条ユキマサさんにお願いしました。世界観のつじつまを合わせなければいけない制約もあるじゃないですか。自由度という点でも、けっこう厳しいんじゃないかと思います(笑)。しかも面白くしなきゃいけない。元の『幻魔大戦』と比べられるわけですし。

 

七月:もう覚悟決めるしかない。

 

早瀬:昔の『幻魔大戦』ってコマが小さいですよね。本当はそれがやりたいんだけれども、いま通用するかというとちょっと難しい。いま石ノ森先生が生きていたらどういう風に描くかな…っていう思いはいつもありましたね。

 

七月:私は逆に平井先生が後年の小説の方ではやらなかった方向を模索しようと思いました。それは何かというとSFロマンとしての『幻魔大戦』です。平井先生がご自分のテーマとして精神世界を追及する過程で取りこぼさざるを得なかった部分です。平井先生自身も、メインストーリーから取りこぼされたものをつないで『ハルマゲドンの少女』というスピンオフ小説を書いているのですが、『幻魔大戦Rebirth』はその『ハルマゲドンの少女』に近いスタンスを持っていると思います。

 

石森:なるほど。一方で早瀬さんは、なるべく石ノ森先生の世界から逸脱しないことを心掛けていたんですね。

 

早瀬:スターシステムゆえの世界観の構築には苦労しました。(さるとび)エッちゃんは確かに昔の『幻魔大戦』にも出てくるんですけど活躍はしてないんですよ。実際それが同じ画面の中で活躍することになった場合、骨格的にも明らかに異なります。かたやギャグ、かたやストーリーマンガのキャラクター。ブクとフロイにしても、同じ犬だけど並んでしまっていいのかという問題もあって。知っている人は、そういうものだろうと受け止めてくれるでしょうけれど、知らない人が見たときにギャグのキャラクターとストーリーのキャラクターが混在するマンガって、どう見られるのか。落ち着いて見ることができないんじゃないか…そういった不安はありますよね。それはいまだあります。でも島本和彦さんに相談したら、「いいんだよそんなの気にしなくても」と言われて覚悟を決めました(笑)。

 

七月:それは島本先生が正解だ(笑)。

ラストに向けて拡がる展開に焦る

石森:七月さんは、脚本が実際に絵になってみて驚く、というようなことはありましたか?

 

七月:コンテ段階で打ち合わせして確認しながら進めてきたので、ネームの段階で、あ、こんな表現に、と驚くことはありましたね。逆に私のシナリオに1コマ加えてセリフ増やして…みたいなこともありましたよね。

 

早瀬:七月さんがイメージするものを本来はそのまま描かなければいけないんだけれども、私が捉えきれずに…といいますか、より分かりやすい形に置き換えたりすることもあるわけですよ。とくに超能力って観念的なものだし…。

 

石森:幻魔自体が観念的ですから()

早瀬マサト
マンガ家。1965年生まれ。1989年、石ノ森章太郎の作画アシスタントとして石森プロ入社。

早瀬:しかも幻魔大王はもう石ノ森先生のマンガでも描かれちゃってるので、あのかたちからは逃れられないんですよね。

 

七月:でも、マンガ家さんが私の文章を受け取ってどうイメージするか、どう変化するのかが楽しいんですよ。そうじゃないと2人分の想像力を使っている意味ないですから。

 

石森:最終回を終えてやりきった感じはありますか?

 

七月:なんとか完走できたという実感があります。

 

早瀬:私は、つねに不安でした(笑)。最終回に向けて七月さんのイメージがどんどん拡がっていくので、これは畳めるのかな?と思っていました。

 

七月:一応のゴールは見えてたので、私はそこに向かっていく感じでしたね。

早瀬:あと1巻で終わりましょう、となったタイミングで、私は話をすぐに畳んでいくものだと思っていたんです。でも、いままでの流れもあるんでしょうけど、七月さんはなかなか畳もうとはしないんですよ(笑)。

 

七月:際どくなったら編集部に交渉しようかと思っていたら、1巻増えたので、あ、まだ拡げられる!と(笑)。しかしそんなことはおくびにもださず最終巻まで行くわけです。最後に向けてボリュームたっぷりにしたかったんですよね。

 

早瀬:まぁ基本的には楽しんで描きましたよ(笑)。ネームを描いてるときは夢中で、こうしたら石ノ森っぽいだろうな、と思いながら鉛筆を走らせますけれど、一本描き終えてから次回の打ち合わせをしているとだんだん憂鬱になっていくという(笑)。これをこれから描くんだ…って。

 

七月:お疲れさまでした(笑)。

 

早瀬:非常に勉強になりましたし、教えてもらえましたよね。自分だけでやる場合、描きやすいものにどうしても寄っていくじゃないですか。それとは違う方向に話がどんどん拡がっていくわけですよ。例えば幻魔に立ち向かうエスパー集団が300人とかシナリオに書いてあるともう絶望しかないですよ。もしこのあと、一人ひとりが活躍しだしたらどうするんだろう!と(笑)。

 

七月:その分、「墨汁で塗りつぶしたような無限の大宇宙…」みたいなサービスはするんですけどね。いえこれは冗談です。でも刑務所のシーンなんか大変だったろうなと思います。大勢で暴動を起こすしね。

 

2人分の想像力を使う意味

石森:この5年間密にお付き合いされて、早瀬さんから見て七月さんってどんな人でした?

 

早瀬:そうですね。ありがたいのは、きちんと締切に合わせてあげてきてくれるプロフェッショナルというところが一番ですかね。コンビでやっていてシナリオが遅れることで作画時間がないというケースも多々あるわけですけど、そういったことは一切ないですから、ありがたいですし、真摯で真面目ですよね。

 

七月:いやぁ、でも危ない橋を渡ってた気もするんですけどね。

 

早瀬:でもスケジュールで絶望的になったことってなかったです。

 

石森:人としてはどんな方ですか?

 

早瀬:これがスタートするときに平井先生の『幻魔大戦』を全部読み返したということからわかるように、すごく真面目に取り組んでくださって。で、この作品は、平井先生のご遺族だったり、関係者の方だったりも、ご覧になるわけですよね。それが、概ね好評をいただけるのはありがたいなぁ、と。もちろんファンの方、読者の方の反響もそうですけど、ご遺族の方に「なんだこれは!」と思われるのは困るわけですから。そうならなかったのは七月さんの力によるものだなぁ、と。

 

石森:七月さんから見て早瀬さんはどんな人ですか?

 

七月:作画に対してすごく真摯な人だなぁ、と。真面目に取り組んで、真面目に悩む(笑)。

 

早瀬:描いているときに悩んで、メールで「こんな解釈でいいですか?」とか質問したりして。楽しかったですよ。

 

七月:マンガ家さんにもいろいろタイプがいて、打ち合わせしやすい人としにくい人がやはりいるわけですよ。ちゃんと意見を向こうからも言ってきて議論できる人が仕事しやすいんですよね。意見をぶつけ合ったすえに新しい着地点見つけるのが楽しいわけです。最初思ってもみなかったものが現れる可能性もありますし。二人分の想像力を使う、そこが醍醐味なんです。

 

早瀬:執筆状況や掲載状況は非常に理想的な感じで、それをストレスに感じたことはなかったから、ありがたかったですね。

 

石森:幻魔大戦シリーズもいろいろありますが、このボリュームできちんとまとまって終わったのは素晴らしいです。

 

早瀬:そんなこと言っちゃっていいの?(笑)

 

七月:それ言っちゃうと「あの伏線ちゃんと回収できてるのか?」とか突っ込まれるかも(笑)。

 

早瀬:伏線回収の件はじつはちょっとビクビクしてたんですよ。でも七月さんが「たとえ回収できてない伏線があっても、それは将来また回収したりされたりする可能性が残るからいいんだ!」とおっしゃって、なるほど、と。

 

石森:何も知らずに読み始めた人も気持ちよく読み終えられると思います。『幻魔大戦Rebirth』5年間の連載、お疲れさまでした。

『幻魔大戦Rebirth』第11巻 小学館より2/12ごろ発売!

原作:平井和正・石ノ森章太郎
脚本:七月鏡一
漫画:早瀬マサト・石森プロ
発行:小学館
価格:591円+税