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- 前半 -

【取材・文:今秀生】

——まず、この企画が始まった経緯を教えて下さい。

早瀬

『チャンピオンRED』で岡崎つぐお先生が「サイボーグ009 BGOOPARTS DELETE」を連載していたんですね。それで単行本作業の際に連載をお休みする事になりまして。「009が載らない月があるのはちょっと 悔しいな」という思いもあって、ならば岡崎先生を後方支援する意味で私がその休載の号に009を描こうかと編集部に提案したのが始まりですね。

七月

でも結局は連載が続いて、わりと岡崎先生と一緒に掲載されることが多かったですね(笑)。

早瀬

「サイボーグ009 BGOOPARTS DELETE」とちょっとネタがかぶってしまった事もありましたね。偶然なのですが(笑)。
それで当時『チャンピオンRED』では島崎譲先生の「銀河鉄道999」と岡崎先生の「サイボーグ009 BGOOPARTS DELETE」がとても人気があったので、だったらゲンがいいのでこっちもちょっと数字で絡めてみようと思ったんです。

——ゴロ合わせみたいな発想からスタートしたんですね(笑)

早瀬

009と戦うにふさわしい数字の付いたキャラクターは何かな、 0マンがいるなとか、鉄人28号がいるなとか。そんなアイデアを出していくうちに、8マンなら加速対決になるから面白いんじゃないかと…。しかも前作は「幻魔大戦Rebirth」という作品で七月さんと組んでいたし、「幻魔大戦」の原作者で、「8マン」の著作権者でもある平井和正先生のご子息とも親しくさせていただいていたので、これは話が早いなって。それで「8マンvsサイボーグ009」という企画を提案させていただいたという経緯です。

——その時点では単発の企画だったんですか?

早瀬

単行本1冊分ぐらいの企画でやったらおもしろいんじゃないかと思ってました。

七月

早瀬さんから連絡がきて「七月さん、サイボーグ009と8マンでVSできませんかね」と。「8と9が戦うわけですよ!」と説明受けました(笑)。
8マンとは何度かご縁があったんです。以前、講談社の『マガジンZ』で「8マンインフィニティ」という、平井先生の監修を受けながらの続編企画をやったことがありましたし、あとこれはまだ陽の目を見ていないんですが、平井先生に許可をいただいて「8マン」のリメイク版を作る企画もあります。まあ、それらとは別ですが、009との企画は「これは絶対にうまくはまりそうだな」と思ったんですね。それですぐお引き受けしました。

——七月さんにお願いした時点で早瀬さんの方におおまかなストーリー案はあったんですか?

七月

別に特に考えてないでしょ。

早瀬

うん(笑)。でも漠然とですが「今作にふさわしい、印象的な巨大な敵を設定したい」とは言いましたよね。どう“対決”させるかという部分には、どんな敵と戦うかという設定も大事ですから。

七月

だから最初は打ち合わせしながら手探りでしたよね。

早瀬

第1話は出会い編から始まるのが王道だろうと思ったんですよ。じゃあ、8マンと009がどこで出会うんだろうと。ここでまず最初のVSを見せなきゃならなかったから、まずそこから始めました。

——時代設定など細かい話は結構話し合われたんですか?

早瀬

基本現代にしたんですが、舞台を昔に持っていってしまうと、さすがにズレがちょっと生じてしまうんです。

七月

そうですね、8マンの時代と009を合わせるのは難しそうだったので、私も現代の方がいいかなと思いましたね。なのでそんなに細かくは話し合ってませんね。

早瀬

長い期間に渡って描かれた「サイボーグ009」ですが、「8マン」と発表年は1年しか違ってないので、そこをベースに考えたらそんなに無茶なことはないかなと。

七月

始まってしまえばそこに対してはそんなに苦労しませんでした。わりとすんなり。

早瀬

どちらにも共通してるテーマがあるんですよ。8マンも009も戦争兵器に使われることは嫌で、大きな組織から逃亡した存在なんですね。となると必然的に共通のテーマで描けますし、そこから共通の敵になる存在も浮かび上がってくるワケです。それを現代に落とし込んで描きたいという気持ちはありました。

七月

そんな感じで、全体像はちょっとぼやっとしたまま、まずスタートしてみたんですよ。まずはキャラクターをぶつけてみてから、その後の展開考えていこうと。
なので、第1話はまず、出会い編として独立させた話です。直接対決はしないけど、VSの構図にはなっているというのを第1話でやってみました。それと、「お前は誰だ」って言われて「私の名は8マン」と答える、これは8マンの定番な部分なのでやってみたかった。まず009と8マンをライバルとして出会わせる。
どちらも同じような価値観や正義を持っているのだけど、対立する構図になっているように持っていけたと思います。

——早瀬さんとしては桑田二郎先生の絵柄に寄せる苦労はありましたか?

早瀬

「8マン」は連載当初は、後の桑田先生のクールなタッチというより、けっこう丸っこくてやわらかいタッチで描かれているんですよね。なのでなんとか上手く009の世界と交わることができる絵柄に落とし込む事が出来ました。8マンと009は等身バランスの違いがありますから、例えば、8マンの身長を若干低くしたり、009の手の大きさを小さくしたりなど、そういう工夫はしてます。
今回、クリップスタジオというソフトでデジタル作画をしているんですけども、デジタルの力を持ってしても、桑田先生の硬質でかすれるような、クールなタッチを出すのは難しいんです。ペンの設定をすごく緻密に調整すれば出せるのかもしれないですけど、私の技術ではなかなか難しいのはわかっていたので、例えば8マンの顔の輪郭であるとか、瞳の形であるとか、そういったところを角張らせて、クールな線が描けなくても、クールな形に見える線を描いて桑田タッチに見えるようにごまかしているんです。

——8マンに対するこだわりが強い七月さんとしては早瀬さんの絵を見てどう思われました?

七月

1回目の原稿を見て、石森先生とはタッチが違う桑田風に上手くアプローチしてきたなと思いました。早瀬さん自身の絵柄は変わらないんだけど、桑田キャラを石森風に落とし込むうまい着地点を見つけてきたなって。 だから違和感は全然ありませんでしたね。それぞれの画風や描線じゃなくて、キャラクターをどう落とし込んでいくかの方が色々な試行錯誤すべきところなんだけど、早瀬さんはそれも上手くやられてたと思います。

早瀬

 まあ、徐々に徐々に描きなれていったという感じですが。

七月

やり取りをしてると、早瀬さんが「8マン」を読み込んで、色んな情報を拾ってくるんですよ。例えば、8マンの特徴として強加剤タバコを吸うというのがあるんですけども、私のシナリオには最初登場してなくて。

早瀬

強加剤タバコを吸う場面は七月さんのシナリオにはなかったのに私がどんどん組み込んで行きました(笑)。

七月

あれは009に通用していいんだろうかというためらいが私の方にはありまして(笑)。
強加剤の設定が「8マン」の中で結構まちまちなんですよ。最初平井先生は、原子炉を制御するための減速材って設定にしてたんですが、原子炉が子供に分かりにくいからって強加剤という謎の物質に変えさせられたりして。その結果あれで原子炉を制御することもあれば電子頭脳を冷やしてくれる描写もあったり、さらに普通に吸うと元気になるって言ってたりと、謎のアイテムになってるんですよ

早瀬

これはもう推測でしかないですけども、8マンは小型原子炉で動きますから、 いわゆる熱暴走しないための冷却剤なんですよね。でも冷却剤という言い方をしちゃうと、どちらかというとマイナス要素。強加剤というとプラスに働くような雰囲気が出ますから変更したんだろうと思うんですよね。強化剤のかという字は「加」なんですが、私が底本としたマンガショップの「完全版8マン」だと全部「化」になってるんです。
平井先生が冷却剤を使えない代わりに「強加剤」と造語を発明したんじゃないかと推測してます。

七月

そこは私も連載中ずっと悩んで、強「化」剤にしましたけど、「8マン」を読み返すと、意味合いとしては「強く加える」なんですよねえ。何を「強化」する薬なのかわからない以上、むしろ「強く加える」の方がオリジナルの意味なんではないかと。
平井先生は21世紀に入ってから「8マン」の続編小説書いてるんですが、そこには強加剤が出てこないんですよ。8マンもアップデートされたんで、もう原子炉ではないんじゃないかって気がします。「8マンインフィニティ」をやった時にももう、「8マンは未来の存在なんだから原子炉じゃなくしてほしい」って言われまして、別のエネルギーで動いてるようにしましたし。

——平井先生は「8マン」に強い愛着持たれていたんですよね?

七月

こだわりも強かったですね。自分の原点だっていう風に実感しておられましたし、平井先生と「8マンインフィニティ」やった時に、8マンの続編をやる意味ってなんだろうって話になったんです。新しい主人公を作るけど、8マンの後継者って言っていいんだろうか?じゃあ、そもそも8マンを8マンたらしめる、重要な要素ってなんだったんだろう?そうしたら平井先生が「あ、今になって気づいたんだよ、8マンていうのは自己犠牲の精神を体現する存在だ」って。その時に平井先生が改めて再認識された事を「8マンインフィニティ」に取り入れましたし、もちろん今回の「8マンVSサイボーグ009」でも終始8マンの行動原理は“他人のために戦う”ことに全て集約させていきました。

早瀬

それがヒーローの条件なんだと思います。だから2人は価値観が合うハズなんです。

※インタビュー内容は、マンガのストーリーに触れております。 作品をこれから読まれる方は、ご注意ください。